引き出しから「秋」

春、夏、秋、冬……。

この国に住む私たちは、古来からずっと四季とともに過ごしてきました。

春の訪れに胸を膨らませ、茹だるような夏を通り越してはさみしく思い、人恋しく秋の黄昏を過ごし、冬には冷えた手を火にかざして温める……。

そうやって巡る季節とともに日々を送り、そうやって時間の流れを感じてきたのです。

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けれども、このところその四季がゆるやかにゆるやかに形を崩し、年々、夏が儚げに通り過ぎることを忘れてしまっているように感じます。

街には、10月も半ばを過ぎてもTシャツで歩く人。「秋冬」という言葉がいったいいつを指すのかが、なんだかわからなくなってきてしまいました。

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四季を感じられないということ、それはなんとさみしいことでしょう。

「春だから着たい洋服」「秋だからこそ、楽しみたい装い」そんなふうに感じられないことの、つまらなさ。そのことを切なく思い、またそのことについてじっくり向き合い……。

そうして考え抜いたのが、今回の新しい生地です。

一見、秋冬らしい色合い、秋冬らしい質感のように見えるアイテム。

けれど、これは「綿」でできています。

まるでツィード生地のようなのに、「綿」と「リネン(麻)」が含まれているので、着心地はどこまでも軽やかで爽やか。

夏のように暑い気温でも、ツィード生地のような秋らしい装いを楽しめる。それこそが、この素材が目指した「気温に左右されず、季節らしいファッションを存分に楽しめる喜び」なのです。

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ともに作ってくださったのは、大阪の大正紡績という糸屋さんです。お付き合いが長く、今年は3度も一緒にものづくりをしています。

実は、大正紡績さんが「こんな、ツィードライクな生地を作ってみませんか?」と提案してくださったのは2019年のこと。しかし「これは、絶対に一緒に作ってみたい」という思いを抱えたまま時は流れ……。そして昨年「夏のような気温でも秋のような装いを楽しめるものを」と思いを巡らせたとき、記憶の引き出しから引っ張り出すように「これだ!」と思い起こしたのが、そのときのご提案だったのです。実に5年の年月を超えて実現した生地です。

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使われているのは、世界三大コットンのひとつ「ギザ」という綿です。それも最新「ギザ96」という品種。繊維が36.0mmと非常に長い「超長綿」と呼ばれるこの綿を3〜4色織り交ぜ、さらにそこに老舗メーカー「キャステリン社」のベルギーリネンを3〜4色織り交ぜて、この深みのある色合いを作っています。

ベージュの生地にはギザに「チョコ」「ミント」「サラシ(白)」のリネンを、ネイビーの生地にはギザに「チョコ」「サーモンピンク」「グリーン」「銀鼠」のリネンを混ぜました。

けれどリネンを使うからには、色が完全に混ざり合って馴染むことはありません。この生地には、繊維が絡み合ってできた糸の節や不規則なかたまり「ネップ」が見えます。ミントの「ネップ」、ピンクの「ネップ」。細部のこだわりですがそれこそが、それぞれの最大のアクセントとなっている。それが、この生地の可愛げでもあります。

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大正紡績さんは言います。「シンプルな見た目の中に、たしかな品質とクラフト感がある、最高の素材ができました」と。それは私たちも同じ気持ち。年間を通して袖を通せるなめらかな着心地と、ツィード感を楽しめるこの風合い、表情。そして上質な素材を使ったからこそ実現できた、長く長く愛用できる耐久性……。それらがすべて揃っています。

まさに大正紡績のセンスと技術があってこそ実現した、ギザの綿とベルギーリネンを組み合わせた最高品質のものづくりです。

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今回は細さの違う2種類の糸を作ってもらったので、Tシャツとニットとして形にすることができました。どちらも味わい深く、長く着るほどに良さがわかる、着てよかったと必ず思っていただける自信のあるアイテムたちです。

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暑くても楽しめる、ツィードライクな秋服を。

頭の中の引き出しから取り出した大切な素材です。これまでになかった楽しみ方が、喜びが、着心地が、秋のあなたに届きますように。

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